不思議で楽しい植物の世界
おもしろい木の実
ムクロジ
どこまでも楽しいムクロジ
どこまでも楽しいムクロジ
ムクロジは昭和レトロの魔法瓶みたいなユニークな形をしているおもしろい木の実で、その中に格納された黒くて堅い種子は羽根つきのおもりや数珠、厄除けや無病息災の願いを込められて利用されてきました。
また、水に浸すと泡立つ果皮は薬用や石鹸として役立ってきました。
そんなムクロジの人との関わりや魅力を探りながら、ムクロジの文化や歴史等、不思議で楽しい植物の世界を盛りだくさんに紹介します 。発芽や成長、樹木・食べ方等については番外編のページに移転しました。
▶ ムクロジの発芽・栽培・成長・花
果実や種子の成長過程 等
昭和レトロの魔法瓶のようなユニークな形をしているムクロジの実。
形もさることながら、半透明な質感はアールヌーボーのエミール ガレやドーム兄弟によるガラス工芸作品を彷彿とさせます。とっても魅力的。
おままごとのポットのようでもあり、かわいいです。ムクロジポットとでも呼んでみましょうか。(笑)
乾燥しきっていないムクロジポットを割ってみるとペタペタした水飴のような粘液が出てきます。
このペタペタしたものはサポニンで、何と!石鹸やシャボン玉にも使われていたという優れものです。
ムクロジの種子には、産毛で覆われている部分があります。
この産毛側上部に、種子形成に必要な栄養分をここを通じてもらっていた臍にあたる5〜6mm一文字ライン(稜) があります。
乾燥が進むと、黒い種子は外の皮から外れ、鈴のような状態になり、振るとコロコロと音がして楽しいです。
黒い種子に見えるものは厳密には種子の入った核の事ですが一般的にわかりやすくするため、以降 黒い種子と表現させていただきます。
6年経過したムクロジポットは暗褐色のシブいポットになっていました。
ドライフルーツといった雰囲気。
使い込まれた魔法瓶のようです。
オレンジ色のドット模様とテクスチャも魅力的。
果皮はハサミで切ることができる堅さで、溶けかかった飴のようにねっとりとしていて香りはマイルドです。
切断面からペタペタとした液がにじみ出てきました。濃い琥珀色の果皮は光に透かすとステンドグラスのよう。
中の種子はカビに覆われたようなものもありましたが、水に浸してから軽く洗うと簡単に綺麗になりました。
せかっくなのでこの果皮を刻んで泡立てた洗浄液を使って丁寧に洗い、さらに磨くと輝きが出てきました。
魔法瓶はタイムカプセルでした。
複数の黒い種子のこすれ合う音は福引きの抽選器をガラガラ回す音のようで、これまた楽しくていいカンジ。
ムクロジの黒い種子を詰めた抽選器のガラガラを作ってみたくなりました。
ムクロジポットはメルヘンチックな形をしているので、試しにデジタル絵本アラジプーの魔法のランプーに登場するへび茶の容器をムクロジポットに差し替えてみました↓下図。これはこれで異様な雰囲気がいいですね。(笑)
お話の最後の方で、魔法にかけられたムクロジの種子が大量に出てきて…。
みなしごうさぎカジンが冒険活躍するおとぎ話です。見てネ!
ムクロジの実の形について詳しくは、
ムクロジの木について詳しくは、
オレンジ色の飴細工のような優雅な器に収納されたムクロジの黒い種子は羽根つきの羽根の黒い玉として使われていたんだそうです。
それもそのはず、ムクロジの種子の堅牢さは種子の中でもトップクラスの優れもの。少々叩いたくらいではビクともしません。
大きさは14mmぐらいで、硬い所に落とすと小気味良くはね返ります。
羽根つきだけに、打ってつけの素材だったんですね。(笑)
ムクロジは漢字で無患子と書くことから、子が患わ無いという願いが込められ、羽子板は厄をはね返す、はねのけるという事から縁起物として扱われていたようです。
また、ムクロジの黒い種子を豆に見立てて、魔滅 (まめ) で魔除けになるとか、マメに暮らせるという縁起かつぎも上乗せされていました。
羽根つきは室町時代から宮中の正月遊びとしてあったそうですが、一般にも盛んに遊ばれるようになったのは江戸時代以降のようです。
羽根つきの羽根は当初、ムクロジの種子に鳥の羽をつけたものを蚊を食べるトンボの姿に見立て、空につきあげて蚊除けのまじないとしていたものだそうです。
当時の疫病は蚊を媒介として広まることが多かったといいます。昨今、よく耳にするデング熱やマラリア等の感染症も蚊が媒介することが知られているので納得です。
しかし、羽根つきの羽根を見た限りでは「どうしてトンボに見えるのだろう?」と疑問に感じたのですが、黒い種子を2つ並べるとトンボのように見えなくもない。
ムクロジの黒い種子はちょうど大型トンボの目の大きさぐらいです。
羽根が飛び交う様子をトンボが素速く飛ぶ姿に見立てたんですね。
室町時代に始まり、現代に至るまで羽根つきや羽子板は時代と共にいろいろな縁起かつぎが加えられ厄除けや無病息災の願いが盛りだくさんにこめられるようになりました。
また、景気を跳ね (羽根) 上げると言う意味で、江戸時代には商売繁盛のお札代わりにも贈られていたという縁起物だったようです。
と、いうことでお正月には羽根つきをすると縁起が良いようですね。
ムクロジの種子の羽根を使った羽根つきで災厄や困難を跳ね返せるように祈願するのも良いかも!?
ムクロジ は葉も羽のような形で飛翔するのに縁がありそうな樹木。特に黄葉期の黄金色の羽葉は見事です。
因みに羽子板の羽子とは (広辞苑より)
ムクロジの核に孔をうがち、彩色した鳥の小羽を数枚さしこんだもので、羽子板でこれをついて遊ぶ。
つまり羽子とは羽根のことですね。なので、羽子つきというのもなるほどです。
※核とは一般的に黒い種子とされている羽根のおもりの部分。硬い核 (殻) の中に本当の種子が保護されて入っています。
羽根つきの羽根の始まりについては
中国最初の植物図鑑 植物名実図考 長編には昔ムクロジの木で作った棒で巫女が鬼を殺したとの言い伝えから鬼を追い払い邪気を無くす、つまり患いを無くすと伝えられた、という 話が載せられているそうです。
また、妖怪、神々の記述も多く含まれる中国最古の地理書・地誌とされる山海経(せんがいきょう)にも桓の原名で果実を酒に漬けて飲むと邪気を防ぐと記述があるそうです。
無患子という名の破邪伝説のルーツはこのあたりかもしれません。
桓という名から無患子という名前になる変遷については
白鳥の羽根を拾う機会に恵まれたので自己流でムクロジの種子に羽根をつけたニュータイプの羽根を作ってみました。
名付けてムクロジシャトル。(笑)
まず、ムクロジの種子の先端にある一文字ライン中央に穴をあけ、そこに極小ネジを埋め込んで装着部分を作り、次に糸で羽根を縛りつけたら接着剤をつけて固定します。
接着部に飾り用のテープを巻けば、できあがり。
バドミントンの羽根のように滞空時間が長くなるように羽根を均等に広げてつけてみるのがポイント。
白鳥以外の羽根も混ぜてみたらこれもキレイで使い勝手も良いです。
一文字ラインの中央に3mmほどの穴をあけて、穴または羽根の根元に木工用ボンドをつけて羽根を差し込み、羽根のバランスを整えてから、完全に接着するまで放置します。
穴のあけ方はコチラ
これも落下時にクルクルときれいに回転して使い勝手が良いです。
白鳥の羽根のせいか天使みたいで軽くてフワフワ、優雅な雰囲気です。
羽根の動きは羽根の付け方でまったく違うものになってしまうので奥が深く面白いです。
ムクロジシャトルの置いてある青い布は自宅で育てた藍で絹を染めたものです。また、羽根そのものも染色することができます。家庭で簡単にできる藍染めを楽しみたい方はコチラへ。
山道で拾った野鳥の羽で作った羽根も渋い色合いがシックで素敵です。
対空時間が程良くて、回転しながら飛ぶ様子も美しく、使い勝手の良い羽根となりました。
衛生面を考慮して、羽は洗剤で洗って乾燥させてから使用しています。
白鳥の羽はお気に入りの素材となりました。また、みにくいアヒルの子なんてことはなく、白鳥のヒナの姿はとてもかわいいです。例えば、
「ラクチン・ラクチン」、そんな声が聞こえてきそうなおちゃめな白鳥のヒナの姿。たまりません!
かわいくって笑っちゃいます。
写真クリック オリジナル画像
おまけついでに綿毛のタンポポに埋もれているとても可愛いカヤネズミの写真に出会いました。
タンポポに比べてこの大きさということはとても小さいんですね。絵本から抜け出てきたような夢のようなかわいらしさです。素晴らしい写真を撮って下さったBinsteadさんには大感謝です!(下はトリミング拡大)
photo by Binstead
Harvest mouse climbs up a dandelion - Mail Online
写真クリック オリジナル画像
※転載はご遠慮ください。
新春の空にムクロジシャトルと雰囲気が似たフェザーつきの種子がふわふわと舞っていました。正体は種髪を広げ旅立つテイカカズラの種子でした。絹毛がキレイです。
テイカカズラについて興味のある方はこちらへどうぞ。
アザミやタンポポ等のキク科の冠毛のパラシュートタイプやカエデ等のプロペラタイプの種子は実に精巧にできていて植物の不思議な世界へと誘われ、見とれてしまいます。
その他、羽根に似ている魅力的な実をこちらで紹介しています。
ムクロジの種を使って羽根を作ってみた第2弾!ムクロジの種のあまりの堅さに羽根作りを断念した方に超カンタンに羽根を作る方法をご紹介します。
大変な穴あけ作業も道具も接着剤も鳥の羽も不要。
てるてる坊主を作る要領でムクロジの種を正方形に切ったレジ袋で包んで輪ゴムで止めるだけ。
種を包む時は種の一文字ライン側を縛る側にします。そうすると丸い側が板で叩かれる方向になり使い勝手が良くなります。一文字ラインに少しだけ両面テープを貼っておけば、すべらずに固定しやすくなります。
薄手の布など軽くてしなやかな素材を使えば、使い心地が良いです。
オシャレな柄やカラフルなレジ袋を使ったり、折りたたみ具合を工夫したりすれば、キャンディーみたいなカワイイ羽根のできあがり。
ムクロジの黒い種子を見せたい時は玉が見えるように外側の布またはカラフルなレジ袋の中央をくり抜いて透明ビニール袋をその中央に被せ、セロテープで固定して同様に包みます。ラッピングタイなどで縛るのも簡単で良いです。
骨が折れたりして不要になった傘の布なんかも良いです。ゴムもカラーゴムやキレイな紐を使えばカワイイ小物にもなります。
耐久性はありませんがそもそも羽根つきはそれほど頻繁にやるものでもないし、この方法なら、すぐに作り直しができるのでご安心を。
ムクロジの実を拾う機会があれば、試してみてはいかがでしょう?
ただし、鳥の羽根と比べると滞空時間が短くスピードが早いので俊敏な動きが要求されます。
羽子板には厄や病気を跳ね返す、という縁起かつぎの他にも羽子板の形にも縁起の良さが盛り込まれています。末広がりで逆さにすると富士山にも見立てられてきたんだとか。
縁起の良さが盛り込まれた羽子板を女児の誕生祝いに贈る習慣は17世紀以降に始まったそうです。
羽子板は室町時代から羽根つき用と飾り用に分かれていきました。
室町時代の羽子板は、板に直接絵が描かれたもので描絵羽子板(かきえはごいた)と呼ばれるそうです。
江戸時代になると、布で綿を包み、絵柄を立体的に仕上げる押絵の技法が施された鑑賞用の羽子板が作られるようになりました。江戸時代後期には歌舞伎役者の似顔絵をモチーフにした押絵羽子板が大流行したそうです。
羽根ができたので、羽子板も作ってみることにしました。
せっかく自分用に作るのですから、使い勝手が良いように、柄がやや長めになるように型紙作り。
次に型紙を端材を写し、のこぎりでカット。その後、怪我をしないようにヤスリでエッジを滑らかに仕上げてみました。
作った羽子板で試し打ちをしてみると、軽くて使い勝手が良く、カツンカツンと小気味の良い音がします。
ふんわりとして優雅な羽根の動きは複雑で、思っていたよりずっと運動量があって楽しいです。
板は軽い桐などが良いようですが、羽根の玉のムクロジの種子がカツンカツン当たって、窪みができてしまうので、絵などの装飾は板の打たない側に施します。杉の板でも作ってみましたが、これもイイ感じ。
今回、絵柄は時短でコピーした絵柄を使いました。インクジェットでは水に弱いのでレーザープリンターで出力し、とりあえずは両面テープで接着して、華やかさを出すために色つきのマスキングテープで縁取ってみました。
このやり方だと、着せ替え人形のように、すぐ絵柄を交換することができます。「もう、これに決めた!」という時には木工用ボンドで紙を貼り、その上に水溶性のアクリル樹脂塗料でコーティングすれば、わりと耐久性のあるものとなります。
絵を描くのに自信のある方はトールペイントがオススメです。お気に入りの印刷物を貼るのも簡単ですね。
柄には握りがソフトになるように、布を巻き、その上に滑り止めとして薄手の革を巻いてみました。
絵柄と柄の間には装飾用に紐を巻いて接着してみました。
今回制作した羽子板の絵柄は福にあやかって、頭文字にふ(ぷ)のつくぷう神となっております。
羽根つきには羽根を打ち合う追羽根と一人で羽根を打ち上げ、その回数を競う揚羽根・突き羽根という遊び方があるそうです。試してみたい方は風の無い日にどうぞ!
ムクロジに縁があったので、厄除けも兼ねて揚羽根に奮闘中!
とりあえずの目標はコンスタントに煩悩の数の108回打ち続けること。省スペースで適度な運動ができるので冬の運動不足解消に効果的。
練習の甲斐あってそれなりに上達しました。
そして、お正月の風のあまり無い日に公園で追羽根を友人たちとやってみました。
くるくると綺麗に回転する鳥の羽がとても美しくて感動!軽やかに高速で回転する様はフィギュアスケーターのジャンプや楓の種子のプロペラみたいです。
しかしながら、わずかな風や羽子板の風圧で羽根の軌道が変わり、打つのが意外と難しく翻弄されます。
たかが羽根つきなどと高をくくっていたのですが、予想以上に激しい動きを余儀なくされ、息切れする程。
もし、顔に墨を塗る罰ゲームをしていたら汗と墨で顔はぐちゃぐちゃになっていたことでしょう。(笑)
お正月の陽だまりの中、ムクロジの羽根が小気味良くカツンカツン鳴り響き、心地良い時間を過ごすことができ、大満足の結果となりました。
羽根つきは風情も運動量もあるので友人たちも「ハマりそう!」と満面の笑顔でした。
ツクバネ (衝羽根) は、ビャクダン科ツクバネ属の雌雄異株の落葉低木で羽根の形によく似ている面白い形の実をつけます。
スギ・ヒノキ・モミ・アセビなどの根に半寄生し、乾燥する急斜面や尾根に生育する植物です。
語源由来辞典によれば、室町時代、羽根つきの羽根にはこのツクバネの実が使われ、ツクバネの中国語名の胡鬼から羽子板は胡鬼板 (こぎいた) と呼ばれていたそうです。
子は種子を意味するので胡鬼の子はツクバネの実をさします。
さらに、羽子板・破魔弓の由来によれば、胡鬼 (こぎ・こき)とは古代の中国でトンボのことを表す言葉なんだそうです。
羽根はあくまでもトンボに見立てることが必須だったようですね。
ツクバネの名前の由来は羽根つきの羽根に似ているという説が一般的ですが、そもそもこの実を手で衝いて遊んだのが羽根つきの始まりと言われています。
ムクロジの種子に羽をつけた羽根はこのツクバネの実を模して作られたもののようで、こちらこそが羽根の本家、元祖だったと考えると形が似ているのは当然といえるでしょう。
耐久性があって、より楽しく遊べてご利益がありそうな羽子 (=ムクロジの羽つきの羽根) の登場が羽子つき=羽根つきを今なお残る文化として定着させたのでしょう。
胡鬼 (コギ)という中国名から衝羽根 (ツクバネ)に名が変ったのはそんな経緯によるものではないかと推測をしているところです。
因みに室町時代の書物の世諺問答によれば、ムクロジつきの羽根が既にこきのこと呼ばれ使われてたことが記されています。その内容は、
羽根つきの起源は14世紀頃に硬貨をおもりにした羽根を蹴る中国の遊びが、室町時代に日本に伝わって変化したものと考えられているそうですから、胡鬼 (ツクバネ) の登場はこの頃だったと思われます。
※上記の写真はすべてトリミング使用、一番下の写真は回転させていただいています。
羽根つきが日本の文献に初登場するのは、看聞御記 (かんもんぎょき)という後崇光院 (ごすうこういん) の書かれた室町時代の日記です。
その中で永享4年(1432年)正月御所に於いて、公喞や女官が男組と女組に分かれ、紅白に分かれてこぎの子勝負=羽根つき勝負に興せられたという内容の記録があります。
因みに負けた方が酒を振る舞うことになっていたんだとか。
当時は羽根つきの羽根を胡鬼 (こぎ) ・胡鬼の子と呼んでいたようです。
文安元年 (1444年) に成立したとされる室町時代の国語辞典下学集には羽子板(ハゴイタ・コギイタ)について正月之を用いると記してあるそうです。この頃にはハゴイタという呼び名も羽根つきが正月の行事として定着していたことを伺い知ることができます。
室町時代に描かれた月次風俗図屏風 (つきなみふうぞくずびょうぶ) は今使っているカレンダーのように1年の各月に行われる公家から庶民に至る各層の年中行事が描かれています。
第1扇に正月の羽根つきをする様子が見てとれます。意外とやる気満々で楽しそうです。この頃はムクロジの羽根を使っていたのでしょうか。
画像出典:東京国立博物館 コレクション
月次風俗図屏風には
その他、毬打、松囃、花見、田植、賀茂競馬と衣更、犬追物と蹴鞠、富士の巻狩、春日社頭の祭と雪遊びなどが描かれているので、興味のある方は東京国立博物館 コレクションでご覧になってください。
天文13年(1544年)に書かれた室町時代の「これってどういう意味?教えて!なぜなぜ」的しきたり解説書世諺問答(せげんもんどう) の中で解説されているものを、ざっくりとした現代語意訳で紹介します。
子どもが老人に質問します。
Q お正月に幼い子どもが こきのこ (=羽根) を突くのはどうしてなの?
それに対し、老人が答えます。
A それは幼い子どもが蚊にくわれないためのおまじないなんだよ。
秋の初めにトンボという虫が出てきて蚊を捕らえて食べるんだ。
こきのこ (=羽根) というのは木連子 (=ムクロジの種子) をトンボの頭に見立てて、それに鳥の羽をつけたものなんだ。
これを板で突きあげれば、落ちる時にトンボ返りのように見えるんだ。
それで、蚊を恐ろしがらせるためにこきのこ (=羽根) を突くのだよ。
※蚊は伝染病を媒介する厄と考えられていた。
物知り老人と子どものQ&A形式で記された現代的な解説スタイルには驚きです。柔軟な発想ですね。
日本に古くからある年中行事の風習やしきたりの由来や起源・意味などを解説できる著者は当時500年以来の才人、日本無双の才人などと評された公卿一条兼良 。(一条兼冬 補完) 古典学・有職故実の研究から和歌・連歌・能楽などに幅広い知識を持つ学者だったそうです。
正月に蚊除けなんて変じゃないかという突っ込みが入りそうですが、年始めの病気予防祈願・厄除けだと考えれば良いのではないでしょうか。
また、羽根の古名の胡鬼 (ごぎ) には異郷の鬼的な解釈もあります。外の世界よりやってくる災いや病や邪気を胡鬼と表現し、それを突き払うことにより災厄を回避する厄除け・厄払いの願いが込められた儀礼や遊びであったとする説もあります。
いずれにせよ、一年の始まりに無病息災を願って行われる祭事となり、お正月に羽根つきが行われるようになったと思われます。
胡鬼のこ(こぎのこ・こきのこ)については
ツクバネの他にも羽根に似た形の実がいろいろあります。
ツクバネガキも名前通りで、大きさも形も羽根に似たかわいい柿です。
仏教三大聖樹の一つ、サラノキの属するフタバガキ科の実も羽根みたいでかわいいです。
羽根と似たサラノキの実はコチラで紹介されています。
▶ 草津市立 水生植物公園みずの森 公園だより
サラノキの現在の様子
赤とんぼみたいなアメリカデイゴも羽根をトンボに見立てて作ったというせいか羽根と感じが似ています。
サンゴシトウ (珊瑚刺桐)も同じデイゴ属で雰囲気が似ています。
梅雨時に素晴らしい芳香を漂わせる純白のクチナシの花も秋には朱色の羽根のような実となります。この実は食品の着色料や漢方薬として広く利用されています。
草木染めで稀少な青色の染料となるクサギの綺麗な青い実。果実が熟すとピンク色の萼が開き、やがて赤と紺色のコントラスト鮮やかな羽根のようになり、美しくカワイイです。
クサギは実だけではなく花も綺麗でかわいいです。興味のある方は
ホオズキもまた、羽根の形に似せると、愛らしいですね。
ムクロジからどこまでも楽しい世界が広がっておまけがたくさん増えてしまいました。(笑)
ムクロジの種子は数珠の玉として使われていました。
堅牢な木質のムクロジの種子。その黒い玉は品の良い艶があり滑らかで触り心地が良く、何やらありがたい感じがします。
なので、この丈夫な天然素材が数珠として用いられたのは、ごく自然な事だったと思われます。
お釈迦様が説かれたという数珠に関する一説を見かけました。
「もし、煩悩・業苦を滅し去ろうと欲するなら、ムクロジの実、百八個を貫き通して輪を作り、それを常に持って行住坐臥に渡って一心に佛法僧三宝の名を唱えてムクロジの実を一つ繰り、また唱えて実を一つ繰るということを繰り返しなさい。そのようにするならば、煩悩・業苦が消滅し功徳が得られるであろう。」
出典内容は仏説木槵子経 (もくげんじきょう) より (東晋代:訳者不明)
…ということは、ムクロジの種子が数珠のルーツだったようです。
注)ムクロジの実は黒い種子のように見える核の事を指すのだと思われます。
元は木槵子 百八箇という表現だったよう。
※数珠の起源である木槵子については無患子(ムクロジ)とする説・木欒子(モクゲンジ)とする説があります。
ムクロジは日当りがよく、湿り気の多い山中に生える落葉高木ですが、寺社に植えられている事が多いとの事です。仏教とは数珠に使用していたという事で関係があるので当然として、神社にも植えられていたというのは子が患わ無いという無患子の持つ縁起の良い名前にあやかっての事だったと思われます。
子の健やかな成長を願う心と信仰が結びついた事が伺われます。
※大きな公園や植物園などにも植栽されています。
ムクロジの種子を使って略式念珠風のものを試作してみました。
素朴で良い感じです。
玉の数は108個を基準とする数珠の玉の1/4となる27個。
27個の主珠はΦ13mmのもの、親玉はΦ16mmの大玉1個を使用。
素朴で良い感じです。
天玉にΦ8mmの透明ビーズ2個を使用したもの。
ついでにジュズブレスレットも試作してみました。
ムクロジとガラス玉とジュズダマを繋げてみたところ良い感じです。
仏説木槵子経(ぶっせつもくげんじきょう)という中国の東晋の時代に訳されたお経によれば、木槵子が数珠の起源となったようです。簡単な説明は、
しかし探ってみると、この木槵子経の指す木槵子が無患子 (ムクロジ)か木欒子 (モクゲンジ) のどちらを意味していたのかはっきりしません。
というのも、かつて日本では無患子と木欒子を同一視していたり、名前を相互に取り違えてしまった経緯があるからです。
室町時代の書物 世諺問答には木連子という表記でムクロジの種子を使い羽根つきの羽根を作ることが記されています。木欒子をモクレンジと読むこともあるので、モクレンシと混同してしまい、ややこしいです。
広辞苑・広辞林には
木欒子(もくげんじ):球形の種子は数珠玉に用い と記載されています。
広辞林によれば、木槵子はムクロジの漢名で本来は誤用、とも。
そして、無患子には数珠玉に関する記載がありません。ということで、木欒子の種子こそが数珠の起源ということになっているようです。
しかし、お釈迦様が108個もの木の実を拾って、数珠を作るように諭されたのだとしたら中国原産の異国の木欒子より、インドの石鹸と呼ばれた地元の無患子の方が馴染みがあったのでは?そもそも、ありがたい話をでっちあげただけかも…。などと思考錯誤?の憶測状態。この2種の樹木は分類上も近いので、昔の方も混乱してややこしい関係になってしまった模様です。
中国では唐代から数珠に用いられていた、とも言われています。
ムクロジとモクゲンジ、どちらも堅くて黒い種子でありがたい雰囲気なので、無理に白黒つけず、どちらも黒々ということで良しということにしようとしたのですが、すっきりとしません。そこで調べてみると興味深い記事が目に留りました。
ある学者の文献には「モクゲンジの実で数珠を作ると色々の書物には書いてあるが未だ実物を見た事が無い」 とありました…
「数珠」を作るより引用。自宅でモクゲンジを栽培し、自らモクゲンジの種子で数珠作りに挑戦されて見事に成功させた経過が克明に記録されています。
検証するためにモクゲンジの種子の実物を手に入れてみました。
綺麗なものが少なく、デコボコや色ムラが気になります。大きなもので5〜6mmぐらい。ムクロジの種子と比べるとかなり小さめ。
堅いけれど殻が薄くて割れやすい上に滑りやすくて扱いづらいです。
堅牢性も耐久性も疑問が残ります。
前述にある学者の方が文献の中で述べている通り「モクゲンジの種子で数珠を作る」のは定説になっている割には普及してなかったのでは…?と思えてきました。
ムクロジの種子の場合、108個連ねると長過ぎる感もありますが、平安時代の物と思われる法隆寺献納宝物の金剛子念珠は約92cmありますのでそれもアリかなと思えるのです。
また、今昔物語集 巻第十九 第十二 於鎭西武蔵寺翁出家せる語の中に「木連子ノ念殊ノ大キニ長キヲ押攤 (おしもみ) テ居タルハ…」と表現があります。
参照文献:実践女子大学学術機関リポジトリ
今昔物語集 巻19 pdf 47p
同じような表現は宇治拾遺物語の中にも見られます。
1-6 中納言師時、法師の玉茎検知の事
これも今は昔、中納言師時といふ人おはしけり。その御もとに、殊の外に色黒き墨染の衣の短きに、不動袈裟といふ袈裟掛けて、木欒子(もくれんじ)の念珠の大きなる繰りさげたる聖法師入り来て立てり。
11-12 出家功徳の事
御堂に参りて、男は仏の御前にて額ニ三度ばかりつきて、木欒子(もくれんず)の念珠の大きに長き、押しもみて候へば、尼その持たる小桶を翁の傍らに置きて、「御坊呼び奉らん」とて往ぬ。
上記のように、大きい という表現は
モクレンジ(木連子・木欒子)は、ムクロジの事でモクゲンジではないと判断できます。そして、念珠は長いものであっても不自然でないと解釈しても良さそうです。
試しに中粒のムクロジの種子を108個繋げてみると、長さは約151cmとかなり長くなりました。
二重にして首に下げると、納まりが良い長さです。
中粒のムクロジの種子は約14mm。
中身を取り除いた種子をテグスで繋いだところ重さは122gありました。
ムクロジの種子の大きさや堅牢さ・重さ・質感・見た目や品位、そして何より触り心地はモクゲンジの種子のそれには無いものです。
繰り返し手で触れば触るほど磨かれて美しく黒光りし、宝石のようになるムクロジの種子は数珠として使うのにはちょうど良い素材であったように思えてなりません。
以上の推測(憶測?)により、仏説木槵子経の木槵子はムクロジの種子を指しており、数珠の起源であったと解釈したいと思います。
追記
その後、縁あって比較的状態の良いモクゲンジの種子を入手することができたので、ムクロジの種子と一緒に数珠のように繋げてみると、想像以上に良い仕上がりとなりました。このコラボこそ木槵子ですね。(笑)
ムクロジの種子36個を繋げたものと比較すると、女性にはこのくらいの大きさの方が扱いやすくて好まれるのかもしれません。
源氏物語の 若紫に登場する金剛子の数珠玉の材質はモクゲンジの木の実だとする説を見かけました。丸くて六つの角があり、色は黒いとも。
モクゲンジの種子のように見える核には角が無いので気になって調べてみました。
原文を読んでみると、この箇所は妙に歯切れが悪くて解りにくいです。
ここで登場する数珠は聖徳太子が百済から入手した宝玉の飾りがついた金剛子の数珠という設定になっています。調べてみると、法隆寺献納宝物の中に水晶・木の実・ガラス玉で作られた名前もそれらしき雰囲気の数珠がありました。
写真クリック オリジナル画像
木の実のように見える玉は金剛子と呼ばれる金剛子木(コンゴウシノキ)・金剛樹の木の実の核で菩提樹の数珠として使われているものだと思われます。
この木はホルトノキ科の高木で、
数珠菩提樹(ジュズボダイジュ) ・
印度数珠の木(インドジュズノキ)
という名前の方が一般的です。
学名 :Elaeocarpus angustifolius
英名:blue marble tree
核の中央に紐が通せるような細い穴が貫通していることから数珠の名前がつけられたのでしょう。
本当の菩提樹と言われる印度菩提樹(インドボダイジュ) の種子は小さすぎて数珠には適さないようです。
この木の実の種子のような核に通常5本の溝が刻まれています。
この溝の数は変異があり、6本あるものもあるそうで、特に稀少本数は珍重されているのだそうです。
これが金剛子に「六つの角がある」と表現され、数珠の起源とされていたモクゲンジと誤解されたのでは?
または六角柱状の結晶形を持つ水晶とも混同されたのかもしれません。
昔、ブッダガヤで入手した菩提樹の数珠。
紐と一緒に朱の染料で染められています。
数珠菩提樹の実はサンスクリット語でルドラクシャ (ルドラ=シヴァ神の目という意味) と呼ばれ、元々ヒンドゥー教徒の修行者の数珠として使われてきましたが、パワーストーン的な扱いをされて人気があります。
その理由として、
念珠の功徳は材質によって異なり、功徳経には
真珠・珊瑚は百倍、
ムクロジは千倍、
蓮の実は万倍、
金剛子は百億倍、
水晶は千億倍の福、
菩提子は福無量
と記されていて多くの経典において菩提樹の実が最上とされているからではないでしょうか。
…そんなご利益のありそうな金剛子念珠の情報を得て紫式部は光源氏の快気祝いの献上品として数珠を登場させたのかもしれません。が、その情報が玉石金剛と言いたくなる玉石混淆状態で、しっくりとこない表現になってしまったのかも?(笑)
学名はインド産の石鹸 ムクロジ
Sapindus mukorossi Gaertn.
英名はsoap nut tree (ソープナッツ)・Chinese soapberry (中国の石鹸の果実) という名が示すように石鹸の代用と使用されていました。
これは果皮にサポニンが多く含まれるためです。
※ラテン語のsapo indicus (インドの石鹸) に日本名のムクロジよりmukorossiの名がつけられています。
秋に収穫したムクロジの果皮は光に透かすと半透明でオレンジ色をしていて、とてもキレイです。
切断面からは飴のようなペタペタとした粘液が出てきます。
ムクロジの果皮はアジアとアメリカの両方の熱帯地域で石鹸代わりに使われていた歴史があり、ソープナッツの他、ソープベリー、ウォッシュナッツという名前でも呼ばれます。
※アメリカ大陸産の西洋ムクロジはSapindus saponariaと名付けられていてサポナリアという石鹸関連の学名がつけられています。
ムクロジの実の皮の部分を大きめに刻んで空のペットボトルに入れて、水を入れてキャップをして振ると、ペットボトルの中に見事にきめ細かい白い泡が立ちました。
かつては石鹸の代用とされたために井戸端などによく植えられた、というのも納得です。独特の甘酸っぱい匂いがあり、苦手と感じる方も多いかもしれませんがインドではリタと呼ばれ、日常的に洗濯や食器洗いに使っていたとか。
試しに使ってみたところ、普通に洗えて油汚れも落ち、匂いもさほど気になりませんでした。
使用時は布袋に入れて使うと取り扱いが簡単。但し、防腐剤などは入れていないので作り置きはしない方が無難です。
青い未熟果でも試してみたところ、既にサポニンがあるらしく、同様に泡立ちました。匂いは穏やかです。
本来の使用方法は乾燥させた果皮を煮立てて、サポニンを抽出するのだそうです。
秋に収穫した半生状態の果皮には鼻につくようなクセのある甘酸っぱい香りがありましたが、カチカチに乾燥したものは香りがマイルドになり扱いやすくなっていました。乾燥させると保存と同時に使い勝手がよくなるようです。
日本でムクロジ果皮を洗濯や洗髪に用いたのは古くは平安時代の頃からだそうで公家屋敷にはムクロジの木が多く植えられていたそうです。
当時は灯明の煤(すす)汚れを洗い落とすのにも利用していたという事なので洗浄剤として既にポピュラーな存在だったのかもしれません。
江戸時代後期の博物誌本草綱目啓蒙(1803~1905年)にはムクロジの実について、果実の外皮を俗にシャボンと呼び、油汚れの衣を洗うに用ゆと書かれているそうです。
江戸時代にはムクの皮と呼ばれ、石鹸として使われていたことを落語の世界で知る事ができます。
なーんと!台湾では現在進行形で、無患子(ムクロジ)コスメが愛用されているんだとか。昔からムクロジの実で洗えば、風邪予防やシミに効果があると言われているそうです。
台湾では身体にも、環境にも優しい無添加や天然物、オーガニック製品の人気が高いらしく、無患子石鹸以外にもシャンプーやコンディショナー、ボディーソープ、食器洗い洗剤等も販売されているようです。
どうやら、温故知新で環境にやさしいムクロジの洗浄効果が見直されてきた、といった感じでしょうか。
泡立ちも香りも良く、さっぱり洗えて、洗い上がりはしっとりとしていてリピーターも多いとのこと。
嬉しいことに、値段もリーズナブルでスーパーやドラッグストアなどで気軽に買うことができるのでお土産として評判も良く、人気急上昇中。
興味のある方は
「無患子石鹸 台湾みやげ」で検索してみてください。
無患子のポテンシャル侮りがたし!(笑) 情報を得ても、日常に使うのをためらっていたあのムクロジを…企業努力ってすごいですね。機会があれば、試してみたいです。それとも石鹸作りにチャレンジか…!? (笑)
試しに6年前に保存しておいた果実の果皮を使って実験してみました。
見た目は堅そうですが果皮はハサミで簡単に刻むことができます。
果皮11個分をざっくりと刻んだものを洗面器に入れて常温の水を加えてナイロンネットを使って泡だてると意外にも簡単に濃厚で、きめ細かい泡が大量にできあがりました。
泡はしっかりとしていて持ち上げても垂れ下がりません。
ストローで吹くと大きなシャボン玉ができました。
泡の下に溶け出した溶液はムクロジの果皮色。
この泡水で果皮を刻んでベタついたハサミと取り出した種子を洗うと、とてもキレイになりました。匂いも気にならない程度でした。
秋に果実の皮を集め、日干しにして乾燥させたものを延命皮(えんめいひ)と呼び、この生薬を強壮、去痰薬として用いていたとか。
何やら縁起担ぎのご利益が盛られたような名前ですね。
サポニンには界面活性剤の働き以外にも抗菌・殺菌・去痰・抗炎症作用などがあって、湿疹、乾癬の治療、そばかすの除去や頭皮からシラミを除去するために伝統的に使われてきたそうです。
参照:Pharmaceutical Sciences And Research
が、果皮にあるムクロジサポニンは有毒成分で胃腸障害や下痢を引き起こすそうなので誤飲・誤食はしないように!
※サポニンが鳥や虫から食べられないよう実を守っているそうですが、時折虫の入った実も見かけます。
ムクロジの実の成長過程を観察してみると、サポニンも少なく軟らかい未熟な時期に侵入されているようです。
かつては貴金属をピカピカにする時にも使っていたとも言われます。
中国から伝来した薬学書の本草綱目 (1596年) には真珠の汚れを落とすのに用いるとの記述があるそうです。
それならとムクロジの果皮を切ったハサミをついでに洗ってみたところピカピカになりました。
次に眼鏡を洗ってみたらスッキリとキレイになりました。なるほど!
また、ムクロジサポニンの泡は消えにくいため、かつては化学泡消火器に使われていたこともあったとか。
参考までに ムクロジ果皮の構成物質:
サポニン、ビタミンC、チロシン、グリシン、フルクトース、グルコース、アラニン、ペントース、メチルペントース、ペクチン糖 等
ムクロジの果皮に含まれるサポニンは洗浄作用以外にも遊びにも使われていたようです。ムクロジを使用した文化は現代と比べ、身近に浸透していたことが分かります。
江戸時代末期の風俗百科 守貞謾稿 (もりさだまんこう) にはシャボン玉を吹くサボンウリ(シャボン売り)の説明と姿が描かれています。
さぼん粉を水に浸し、細管をもつてこれを吹く時丸泡を生ずと記されています。
原文は下画像をクリック ▼
出典:国立国会図書館デジタルコレクション
守貞謾稿. 巻6-19p
写真クリック オリジナル画像
さぼん粉の原料はムクロジの果皮や芋がらを焼いて粉にしたもので細い竹の管や葦の茎等をストロー代わりに使ったんだとか。ふわふわと虹色に光る玉は今も昔も人気があったんですね。
そこで、乾燥したムクロジの果皮を使ってシャボン玉作りに挑戦してみました。気温28℃ぐらいの時に常温の水60ccに果皮1個分を入れて撹拌。泡はよくたちますがすぐ割れてしまい少しは飛ぶものの痛快に飛ばすのは難しいです。50℃位のぬるま湯でも試しましたが同様の結果に。しかも虹色ではありません。
今度はシャボン液を濃くして試してみることにしました。
昨年のムクロジの乾燥した果皮2個を使用。サポニンが溶け出しやすいようにハサミで細かくカット。
切り口がペタペタしますが、クセのある甘酸っぱい香りはマイルドになっていて扱いやすくなっています。
小ビンにカットした果皮を入れ、水を入れます。
蓋をして軽く振り、半日〜1日ほど放置します。
果皮がふやけて不透明になり、液も白濁しています。
ビンを少々振るだけで泡立ちます。
ストローの先端に切れ込みを入れてから広げ、シャボン玉を吹く道具も作ってみました。
今度はちゃんと膨らみました。
そこそこ大きなシャボン玉にもなります。濃度によっては、シャボン玉らしく飛ぶものもできました。
その後、ムクロジの果皮をナイロンネットを使って泡だてて作った濃密泡を吹いたら、大きなシャボン玉が簡単にできました。
江戸時代のシャボン液には松脂を加えて粘着力を増していたそうです。松脂の油分が虹色の素のようです。
最近では大きくて割れにくいシャボン玉を作るのに砂糖を加えるそうです。シャボン液の粘度が高くなって膜が強くなる上に、シャボン玉の表面の薄い石鹸膜の水が蒸発しにくくなるということです。
身近なものでより良いものを作る工夫も昔から引き継がれているんですね。
さぼん粉に使われていた芋がらとはズイキとも呼ばれる里芋の茎のことで、断面を見るとスポンジのようなたくさんの穴があいています。
実はこの穴は管の集合体となっていて、レンコンのようにつながっています。特に蓮芋の茎には大きめの管の集合体になっているので、これをストロー代わりに使えるのでは?と思いつき、試してみました。
台用洗剤を適当に薄めたシャボン液に芋がらの先を浸し吹いてみると、ちゃんと膨らんで玉を作ることができました。穴が多いので玉が同時に複数できますが表面積が広くて勢いがないのかうまく飛ばすことはできませんでした。が、持久力の長い泡なので見ていると楽しかったです。
芋がらは生でも食べることのできるクセのない食品なので口にくわえるのになんの問題もありませんので、ご安心を。茹でて焼きナス風にしてみるとおいしいです。(笑)
食べることができて、シャボン玉の原料にもなり、吹く道具のストロー代わりにもなる芋がらもまた面白い植物の世界を教えてくれました。
落語の茶の湯では、茶の湯の事を何も知らないご隠居さんが、小僧さんに知ったかぶって青黄な粉を抹茶だとでまかせを言って茶をたて、泡がたたないからとムクの皮の粉を入れて泡立てるという場面があります。
このムクというのはムクロジのことで、当時は石鹸代わりに使われていた事を伺い知る事ができます。
それで、どうなったかって?殺人的不味さなのにもかかわらず、見栄をはって「風流だ。」などと言って、なんちゃって茶道を続けたご隠居さんと小僧さんはムクロジの皮入りのデタラメなお茶を飲み続けた結果、トイレの住人となるほどに酷い下痢をして、げっそりしてしまいます。が、懲りません。
せっかく究めた泡裏千家?だから、人を招いて飲ませたくなります。
そこで、長屋の住人をターゲットにしぼり、招待状を送りつけ…。
本題から話はそれますが、
お噺の後半で、ご隠居さんが茶菓子の羊羹代をケチるためにサツマイモと黒蜜で羊羹もどきを自作します。
その折に、離型剤として灯明の油を用いてしまったものだから、とても食べられた代物ではありません。
後始末もぐっちゃぐちゃの油ギットギトでうんざりです。
が、油汚れに強いムクロジ入りのお茶をもどきを使えば、さぞキレイに器を洗う事ができた事でしょう。
お後がよろしいようで…。(笑)
「知らない。」と言えないプライドのせいで、登場人物みんなが知ったかぶりを続け、奇妙きてれつな茶道の世界の泥沼にはまっていきます。
つまらない見栄のせいで引っ込みがつかなくなった人間の姿を扱った、とてもおもしろいお噺 (はなし) なので興味のある方は聴いてみてください。ムクがムクロジの事だと知っていれば、尚おもしろい!
サボン・シャボン(sabão)とはポルトガル語で石鹸のことですが、これがサボテンの名の由来だと言われていています。石鹸のようなものということで石鹸体(さぼんてい)と呼ばれるようになったのが転じてサボテンになったとか。諸説ありますが、これが有力説です。
サボテンは何やら外国語っぽい名前ですが何と日本でネーミングされていたんですね。
サボテンが初めて日本に持ち込まれたのは16世紀後半。オランダかポルトガルの風帆船が日本にくる途中、アフリカ西北岸の沖合にあるポルトガル領マディラ島へ寄港した折に同島に自生していたウチワサボテンを持って来て、長崎へ運んだと思われる、という内容の記述が伊藤芳夫著「サボテン記」の中にあります。
実はサボテンは江戸時代に畳や衣服についた油の汚れをとるのに使われていたそうです。
当時利用されていたのはウチワサボテンで、江戸時代の貝原益軒著「大和本草」(1709年) にサボテンについて「誠に草中の異物なり。油の汚れをよくとる。」とあります。
また、小野蘭山著「本草網目啓蒙」(1803年) 石鹸の項には
「畳に油のついた時にウチワサボテンを横に切ってこすれば、油を吸い取る。よってシャボテンといい、これが転じてサボテンという。」という内容が記述されています。
ムクロジと同様にウチワサボテンもサポニンを含み、油落としに使われていていたのでシャボンから名付けられていたのですね。
全草にサポニンを含むナデシコ科のサボンソウ (シャボンソウ) もまた、ヨーロッパで古くから石鹸の代用品として利用されてきました。英名はソープワート。
明治の初期に園芸植物として入ってきました。比較的寒さに強いので、日本でも各地で野生化しています。
葉を水に浸して揉めば泡立ちます。
マメ科の落葉高木で幹や枝に鋭い棘を多数持つサイカチ。
サイカチの豆果の莢にはサポニンが含まれるため、古くから洗剤として使われていたというので試してみました。
振ると、カラカラと種子が揺れる音がします。
薄べったくて曲がりくねった豆果は20〜30cmとかなり大きいので長い莢を粗くちぎります。
洗ってから、ちぎった莢を常温の水に 1 日浸漬させると水が赤褐色に。
液にはムクロジに通じる独特の香りがあります。
もみ出した液を濾してみると濁った赤褐色になりましたが、あまり泡だちません。この液を使用してみたところ、洗浄力はあまり感じられません。むしろ着色されて汚れてしまいそうです。
サイカチのサポニン含有量は採取場所や収穫年により異なるそうです。
残念ながらこの豆果は莢をむいた時にカサカサラでペタペタするような感触は一切無かったので洗浄能力の結果が悪かったのかもしれません。
サイカチの種子もムクロジと同様に種皮がかなり堅いです。
サイカチの種子と発芽の様子は
ムクロジ破邪伝説のルーツに登場するムクロジの原名の桓はどのようにして無患子という字になったのか推測してみました。
まず、ムクロジは種子が特徴的な樹木です。なので、木の名前をつける時に種子を意味する子という字を入れたと思われます。
そこから、木桓子→木患子・木槵子→無患子という変遷をたどったのでは?因みに中国語で木の発音は(mù)、無=无(wú)で、桓・槵・患は共に(huàn)と同じ発音で、子は(zǐ)となるようです。
桓→
木桓子→木患子・木槵子 (モクカンシ) →間違えて→モクゲンジ→訂正→無患子 (ムクロジ)
ムクロジの呼び名については、
また、ムクロジと同様に高木で羽状複葉の葉をつけ、堅くて黒い種子がなる似た雰囲気のモクゲンジ。この両者は昔から混同されてしまった経緯があり、ややこしい関係となってしまいました。(以下 参照)
木欒子 (モクランシ) →モクロシ→間違え→ムクロジ→訂正→木患子 (モクカンシ) →モクゲンジ→木欒子 (モクゲンジ)
モクゲンジについては以下のページで詳しく解説しています。
例えば、今昔物語に登場する木連子はモクゲンジの事ではなくムクロジの事と思われます。
さかのぼってみると、数珠の起源が記されている木槵子(モクゲンジ)経のモクゲンジあたりから名前の識別に混沌が生じて、今日に至っているように見受けられます。
これらについての考察はコチラ
ムクロジには方言も含め、いろいろな呼び名があります。
ムク ムクロ ムクロジュ ムクロンジ ムクロウジ ムクデ ムイコロ ムクユ
ムクリュウ
これらのムクつながりは仏教と共に中国経由でムクロジ文化がやってきたために中国名の呼び名のムクロジからついたものと思われます。
それにしても、無患子は難読漢字に指定されているだけあって、これをムクロジと読むのは困難ですね。
また、木患子・無患樹という漢字もムクロジと読むそうです。
ツブ ツブナリ ツブノキ(粒木)
木に実が粒なりについている様子から名前がついたと思われるツブつながりは分かりやすいです。
葉の落ちた後の枝にぎっしりと実の残る様子はまさにツブナリです。
江戸時代の本草書 重修本草綱目啓蒙には下記のように記述されていて、歴史や文化の違いが感じられます。
ムクロウジ 筑前 備前
ムクロンジ 越後 江戸
ムク 江戸
モクゲジ 佐渡
クロモジ 同上
ツヾ(ツヅ) 奥州 藝州
ツブ 京
▶ 参照:国立国会図書館デジタルコレクション
重修本草綱目啓蒙 35巻. [24] コマ番号33-34
ムクリュウという呼び方もあるそうでムクとツブ(粒)を合わせたような名前に思えます
種子が黒いので実黒地 (みくろじ) と呼ばれ、ムクロジとなった、という説はシンプルで好きです。
石鹸の木というのはムクロジの果皮が石鹸代わりとして使われていたので、効能そのものの名前です。西洋でもソープナッツとかソープベリーとか呼ばれているのと同じですね。
ムクロジの学名は
Sapindus mukorossi Gaertn.
sapo indicus (インドの石鹸)を意味する属名 Sapindus の後につく
mukorossi(ムコロッシ)は何やらムクロジと似ています。
それもそのはず、
mukorossi は 種小名でムクロジという日本名をラテン語化したことでムコロッシとなったようです。
※種小名はその種の特徴をラテン語化して表す語で形容詞または名詞の形容形を用います。
二名法という名字と名前のように属名と組み合わせることで世界共通の学名となります。
Gaertn.はヨーゼフ・ゲルトナー(Joseph Gärtner)という学名命名者を示しています。
でも何故インド原産で無患子の中国名をもつムクロジの日本名が使われたのでしょうか? それには、
カール・ペーテル・ツンベルク
(Carl Peter Thunberg)という鎖国期の日本にやってきたスウェーデン人医師・植物学者が関与しています。
かの分類学の父と称されたカール・フォン・リンネ(Carl von Linné)の弟子にあたる人物で、日本の医学・植物学の発達に貢献した出島の三学者の一人です。
ツンベルクは安永4年(1775年)に出島商館付医師として来日、日本に1年数ヶ月滞在し、多数の標本を持ち帰り、それを基にFlora Japonica(日本植物誌 )を1784年に出版しました。そして、これが日本の植物研究の出発点となったそうです。
その標本の中にムクロジも含まれていました。そんな経緯があって日本のムクロジが西洋に周知されるようになったわけです。
標本 下部分 ↑ には
Mukoroffi. / Sapindus? No. 37
という注記が書かれている?
(ちょっと判別しにくいですが …)
画像出典:Thunberg's Japanese Plants
Flora Japonica(1784年発刊)にはこのように記載されています。
※ムクロジ属 互生 落葉 日本 ムクロジ という内容か?
…ということで、Mukoroffi というこのラテン語名で西洋に紹介され、後にmukorossiという名前になったと思われます。
それにしても、江戸時代に作成された標本をこんなにもしっかり見ることができるなんて驚きです!!
そしてこの膨大な資料を後世に残すためにご尽力された方々に感謝!
無患子の種子をいくら一生懸命磨いても黒いままで白くはならないことから、生まれ持った気質というものは、直せないものという意味合い。
また、労して功なきことや色の黒い者が化粧するのをからかったりする意にも用いられたそうです。
ことわざになっていたことにより、無患子(ムクロジ)が昔は現在と違って身近にあったことがわかります。
同じような意味合いのことわざに
烏(カラス)は百度洗っても鷺(サギ)にはならぬ とか、英語の
A crow is never whiter for washing herself often.
カラスがまめに体を洗っても白くはならない。
というものがありますが、
無患子は三年磨けば輝きを増す
愚直に磨けば、生まれ持った気質は宝石のようになる、みたいなプラス思考のことわざがあっても良いのに、と思っています。(笑)
朽ちてしまったクリの木を利用してベンチを作ることになりました。
動物みたいなおもしろい形のベンチにムクロジの種子を目として入れてみると画竜点睛!なかなかの目力でイケてます!(笑)
偶然、遠足で訪れた小学生達は設置したてのベンチに大喜び!
ベンチの設置場所は埼玉県飯能市の細田地区大仁田山登山道沿い。
現在、ムクロジは幸福の王子の目のように何処へか消え去り、メンテを行っていない朽木ベンチは当時の輝きを失って風化して残念な状態です。
ベンチの設置されている草原は
超ローカル名奥武蔵のシャングリラとか奥武蔵のマチュピチュと呼ばれる高度感のある開けたエリアです。
興味のある方は、ハイキングに来てベンチでくつろいでみてください。
空気の澄んだ日には東京スカイツリーも見ることができます。
個人の私有地ですが持ち主様の厚意により休憩できるスペースとなっております。
夏にタマムシやルリボシカミキリ、オオセンチコガネなどの昆虫にも出会うことができました。カモシカやシカも一年中出没している自然豊かな環境です。
このエリアの詳しい情報は、
赤く着色したムクロジの種子を使いクリスマスリース用の飾りを作ってみました。
材料:
アケビの蔓 ヒイラギ ムクロジの種子
シダーローズ(ヒマラヤスギの実)
ゴンズイの実 パンパスグラス
生の赤い木の実は長期間飾るのには不向きですが丈夫で耐久性があってナチュラルなムクロジの種子は大きさも手頃なのでクリスマスリースの飾りにピッタリ!束ねても素敵。
松ぼっくりやドングリ等いろいろな木の実と組み合わせるとゴージャスです。モミの葉など緑色と組み合わせたクリスマスカラーが魅力的。
ムクロジの種子の加工は堅くて滑りやすいのがネックです。
そこで滑り止めとして粘着面が外側になるように布タイプのガムテープで種子を巻いて固定。そうしてから一文字の切れ込みにおしゃれな金色の真鍮釘を打ち込みます。
その後、乾燥時にぶら下げれられるよう、釘に紐をつけてからアクリル樹脂系の塗料やマニュキアなどで着色をします。
洗濯バサミ等で紐をぶら下げて乾燥させます。塗りムラがあったり、色が薄い場合は重ね塗りをします。
このページは なんだろな の中の
「不思議で楽しい植物の世界
ムクロジ」